社畜のはりきり朝ごはん

社畜なのにがんばって朝ごはん作るよ!ホントだよ!炊飯器でカレーとか作るんだよ!٩( 'ω' )و

秋刀魚とブロッコリーを前に私は。

その日は目が覚めた瞬間から漠然とした不吉な印象を感じていた、いや、感じざるを得なかったといったほうが正しいのかもしれない。



そんなジプシーの不吉な予言のようなよそよそしい感じは、目の前に食材を並べた瞬間に握り締められるくらいにはっきりとした形をとって立ちはだかった。



秋刀魚を焼いてブロッコリーを胡麻和えにするのだ。

102126
10243


秋刀魚を焼いてブロッコリーを胡麻和えにする?



ばかみたいに思うかもしれないが我が家のガスレンジは忘れ去られた考古学の標本のように洗われておらず、当然のことながらすりこぎとすりばちなどという道具がキッチン・シンクの中に転がっているわけではない。



しかしその日ぼくがサンマの塩焼きとブロッコリーの胡麻和えを体の中から真剣に欲していたことは疑いようがなかったし、良かったら口の中から掴み出して目の前に差し出してあげたいくらいに確かな事実だった。



そこには1片の妥協も留保も接続詞も無かった。



全ては明白でぼくにはわかりすぎるくらいにはっきりとわかっていたのだ。



ぼくはおもむろにアルミホイルを取り出すとサンマに塩を振った。



秋刀魚にはうっすらと秋の終わりの霜のような結晶体が降り積もり、それはまるで豪華な祝祭のようにすらぼくには思えた。



「アルミホイルは何に使うの?」



「アルミホイルはここではお皿なんだ。」



「オーブンを秋刀魚の油分から守るために使う」



アルミホイルをできそこないの玉座のように縮こめるといくらかマシに見えた。これで秋刀魚も少しは乗り気になってくれるかもしれない。

10242

それからオーブンで5分、秋刀魚の傷ついた心が癒され、そのなめらかな金属のような皮が焼けて弾けるのをじりじりと待った。



5分が経ったが秋刀魚はまだ不服そうだった。早朝から無理矢理起こされたことをまだ根に持っているのかも知れない。ぼくに与えられた選択肢は限られていた。



オーブン・タイマーを思い切り時計回りにひねる。

10245


さて、秋刀魚の行く末を案じながら同時にぼくはブロッコリーのことを考えていた。



今からすりばちとすりこぎを買ってきて果たして朝食に間に合うだろうか?



世界の佐川急便ならともかく、少なくともぼくにはちょっと自信が持てない。



やれやれ。こんなことになることくらい前もって予想できたはずなのだ。



しかし、まるで映画のワン・シーンのように、わたしには全部わかっていたのよ、という素振りを全身から発しながら彼女はそこへやってきた。

102410


ふりかけと呼ばれている彼女はぼくの苦境を補い、慰め、救済するためだけにそこに立っていた。



「ごまなんて擦らなくても、あたしがいるじゃない」



彼女には全て最初からわかっていたことだったのだ。



それはぼくが雨の日の象のように孤独になるまで気づくことはなかったかもしれない。



しかしこうしてその時はやってきたのだ。



神戸牛ふりかけのふたをそっと開けると、おわんにはさらさらと良い香りのする粉が流れだした。



醤油を一振り、ニ振り、なにかの印のようにそっと滴らせると、ようやくぼくが心から望んでいた姿が現れた。

10244

そこからさきは簡単だった。


ぼくはブロッコリーを2分30秒ずつ2回電子・レンジで加熱するとこの醤油ふりかけをブロッコリーにまんべんなくからめた。

10248


ちょうどそのときお味噌汁はくつくつと音を立てて、炊飯器からは炊きたてのご飯の香りが漂った。





時間なのだ。




この頃には秋刀魚の方もぼくのことを許してくれたみたいだった。

10247


今となってはかつての軋轢や確執なんて些細な思い出に過ぎない。



ぼくが秋刀魚のことをどう考えているか、彼女も感じ取っていることがぼくにもわかった。



ようやく我々の旅は終わりを告げようとしていた。


10246

「ある程度までは努力と愛情とちょっとしたコツのようなもので近づくことができるんです」



「ただ、それ以上近づくには才能と運が必要な世界があります」



ぼくはそんな風にいつか料理を作る日が来るのだろうか。



10月の終わりにしてはぽかぽかとした日差しの中、村上春樹を読みすぎた頭でこれからのことを考えていた。




ピース\(^o^)/ぴょーん